研究概要 |
分子磁性という分野は我国が世界に誇れる基幹物理化学の一つである。基礎的研究面での多大な成功の一方で、残念ながら分子磁性材料の応用面の研究は立ち後れている。本研究では、分子性磁性材料開発に、分子性物質ならではといったような特性を付与することを目指した。すなわち、分子性磁性材料の将来は、旧来の無機材料系磁性体の用途とは異なる指向を持たねばならない、と位置づけた。その結果、超分子化学の適用により磁気的相転移温度を変化させることが可能な化合物等を開発することができた。 ピリミジン(PM)およびN(CN)_2の架橋配位子を用いた錯体では、ゲスト分子が結晶の格子の間に取り込まれることがわかった。[Fe{N(CN)_2}_2PM]・(guest)は、ゲスト分子がエタノール、プロパノール、ブタノール、ピリミジンのときの磁気的相転移温度がそれぞれ3.3,4,4,3.6,5.6Kであった。この系では、磁性体を特徴付けるパラメータ(臨界温度、臨界磁場、自発磁化)をゲストにより変えることができた。 [4PMNN・CuX_2]_6(X=Cl, Br)は、12スピン大員環の分子構造を有し、結晶中ではカラムを形成する(4PMNNは4位にニトロニルニトロキシドラジカルを有するPM)。チューブ状空間にゲスト分子として有機分子やハロゲン化アルカリ金属塩を取り込ませたところ、強磁性的相互作用が増大した。ゲストとして水を用いたものは、減圧による脱水の前後で、磁性を大きく変化させることができた。この系は磁気相転移を示す物質ではなかったが、磁気的相互作用をゲストにより変えることができた。 本研究課題では有機ラジカル類を超分子構造体へと展開し、金属-ラジカル-ハイブリッド系磁性体の開発も推進した。架橋配位子として複素芳香族類に着目し、円環状、鎖状といった構造をもつ幾つかのハイブリッド磁性体を得た。
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