| 研究概要 |
モリブデン巨大環状クラスター化合物は,約40Åと言う巨大な直径と内径が20Åを超える空洞(車のタイヤ様の形状)をもつクラスターである.この特殊な構造や化学的振る舞いの面白さから、この化合物(塩)は近年世界的に注目されている.しかし,これまでこの化合物は合成上の制約のためアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンを含む系としてしか得られておらず,このためおもしろい物性を示すものは見出されていなかった.
本研究では,アルカリ金属イオンやアンモニウムイオンを含まないモリブデン巨大環状クラスター溶液(対イオンはプロトン)を合成し,それに望みの金属イオンを添加することにより機能性物質として興味ある当該化合物を合成することを目指した.科学研究費補助金で購入された設備備品などにより,モリブデン巨大環状クラスター溶液を効率よく多量に合成することが可能となるとともに,巨大環状クラスター化合物の合成条件を厳密に制御することが可能となった.これらの設備を用い,様々な金属イオンとモリブデン巨大環状クラスターの化合物の生成を調べ,様々な系で結晶性の化合物の生成を確認することができた.ただ,得られた試料の構造解析では,当初,十分に高い結晶性を示す回折像を得ることが出来ないと言う問題に直面した.そのため,比較的結晶性が高いと思われたNi^<2+>との化合物に特化して様々な検討を加えた.その結果,問題は合成された試料の結晶性にあるのではなく,構造解析の際の試料からの結晶水の脱離によることがわかり,Ni^<2+>とモリブデン巨大環状クラスターが作る化合物の構造を明らかにすることも出来た.この結果は,興味深い物性をもつ巨大環状クラスター化合物の合成に道を開くものであり,近く開催される国際会議での発表と学術論文として発表を予定している.
|
