本年度は触媒活性の指標として水素分子の吸着反応性に注目し、水素分子の反応活性と電子物性との相関を指標としながら、合金化によって反応活性の変化と電子物性との相関を中心に研究を展開した。対象とした多元系は、(a)合金系(ニオブ-アルミニウム、コバルト-アルミニウム、バナジウム-コバルト、金-パラジウム)と(b)半導体系(希土類-シリコン)、および(c)酸化物系(バナジウム酸化物、コバルト酸化物、ニオブ酸化物)の3系である。 生成では2台のパルスレーザーによるレーザーアブレーションを用い、電子物性の評価ではクラスター負イオンの光電子分光を主に用いた。その結果、(a)合金系では電子物性の変化を水素分子との活性と関連付けることは難しく、ニオブーアルミニウムについてのみ相関を見出すことができた。この系では、アルミニウム原子の挿入に幾何的な規則性が存在するためであり、合金系では電子物性の観測が、幾何因子を微視的に評価することにつながらないためである。一方、(b)半導体系では、電子親和力、電子準位間隔といた電子物性の評価を、反応活性と極めて強く関連付けることができ、シリコン原子11個と希土類原子1個の金属内包かご構造を見出すことに成功した。この系では、共有結合性の顕在化によって幾何構造の安定化が不連続に変化するためであると考えられる。さらに、(c)酸化物系では、金属クラスターに酸素原子が10%程度以内であれば、酸素原子を不純物として取り扱うことが可能あるが、それ以上の酸素混入では大きな構造転移が誘起されることを見出した。これは、金属結合と酸素原子による共有結合とが競合して幾何構造を支配するためであると考えられ、10原子を越えるクラスターサイズでは、金属酸化物クラスターに幾何異性体の存在が顕在化することを示唆している。
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