C_<60>アニオンラジカル塩は超伝導特性や強磁性的挙動に代表される特異なフラーレン物性の担い手と考えられる興味深い物質であるが、C_<60>アニオンラジカル塩を分子性結晶として捕捉し、構造決定がなされて物性との相関に関して十分な知見が得られた例はきわめて限られている。これは、本質的に不安定なフラーレンアニオンラジカル種を単離し、かつ物性を評価することが、かなり困難であることによる。本研究課題の目的は、フラーレンアニオンラジカルを分子性結晶として捕捉するため、液相電解結晶成長法を用いて、嵩高い安定化カチオンによって著しく不安定なフラーレンアニオンラジカル種を単離し、その物性、とくに電気伝導特性に関して検討することにある。これまでπ電子系を持つ嵩高い有機カチオンであるトリフェニルメタン系有機色素カチオンにより安定化したC_<60>アニオンラジカル塩の合成およびその物性評価を行い、これらが、かなり安定な半導体的な挙動を示すことを明らかにしてきた。しかし、単結晶の構造が解明できた例はこれまでに(Brilliant Green)+(C_<60>)^-塩の1例にとどまった。C_<60>の極性溶媒への溶解性が低いことが、単結晶が得られない一因とも考えられるので、最終年度は、極性溶媒への溶解性を考慮し、C_<60>誘導体C_<60>(CN)_2とC_<60>(NO_2)_nを用いて、電解結晶成長法によるアニオンラジカル塩単結晶の育成をおこなったところ塩が生成することを、IRやESRでC_<60>アニオンラジカル塩の生成を確認したものの単結晶成長としては不十分であった。一方、官能基修飾したフラーレン誘導体およびナノチューブ誘導体は、超臨界状態でポリマーに浸漬できることを見いだした。今後、これらの伝導物性についても検討する。金属錯体との界面相互作用による結晶成長に関しても検討を進めた。
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