磁気共鳴イメージング(MRI)においては、組織間のコントラストを上げるために、ガドリニウム系の造影剤が多く用いられているが、必ずしも正常組織と病変を明確に区別できない場合もある。そこで本研究においては、病変を早期に発見するために、特定の組織や細胞(例えば腫瘍細胞)に選択的に集まるMRI造影剤の開発を行うことを目的とした。この目的を達成するためには、まず金属配位子の各種官能基化が容易に行えることが必要であるが、従来の造影剤[ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)系やテトラアザシクロドデカン4酢酸(DOTA)系等]では選択的な官能基化に困難があった。そこで本研究では、造影剤の基本骨格として、アミン部分とベンゼン環部分への選択的な官能基の導入が容易であるという特徴をもつサリチルアルデヒド誘導体とポリアミン類の縮合で得られるシッフ塩基配位子を用いた。 まず、より安全性が高いとされる非イオン性造影剤を目的として、Gd^<3+>と中性の錯体を形成する配位子の合成を行った。各種サリチルアルデヒド誘導体とジエチレントリアミンとの縮合をおこない、得られた配位子のイミン部分とアミン部分の反応性の違いを利用して3価の陰イオンとなるように酢酸基を導入した。これらの配位子の構造を調べるため亜鉛およびニッケル錯体とした。また、サリチルアルデヒド誘導体とトリス(2-アミノエチル)アミシとの縮合によるシッフ塩基の合成も行った。水溶性を上げるため芳香環部分にはポリオキシエチレン鎖を導入し、目的のシッフ塩基を得た。これらの各種官能基化した配位子を用いて、ガドリニウム(III)錯体を合成した。ガドリニウム(III)錯体のプロトンNMRの測定をおこなったところ、造影剤としての基本的性質である、緩和時間短縮効果が見られた。 今後、緩和時間および錯体の安定度定数の測定などをおこない、造影剤としての評価をおこなう予定である。
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