本研究は、光エネルギーを駆動力とし、常温常圧下で作動する全く新しい空中窒素固定化プロセス・システムに関するものである。導電性ポリマーと酸化チタンからなる有機/無機複合接合に光照射を行うと、複合半導体内で化学反応が生じ、空中窒素と水分から最終的にアンモニア態生成物が得られるというものである。しかしながら、生成物の一つが過塩素酸アンモニウムであることがわかっているだけで、その機構論的検討は行われていなかった。本研究では、その窒素固定の生成物を同定し、反応機構に関する知見を得ることを目的とした。 まず、反応の生成物を同定する目的で、窒素固定反応後の導電性ポリマー層および酸化チタン層の元素分析をXPS(X線光電子分光分析)を行った。その結果、窒素固定化生成物は、過塩素酸アンモニウムだけではなくアンモニアも生成していることが判明した。また、上記2つのアンモニア態生成物の絶対量の化学分析とEDX(エネルギー分散型X線解析)による膜分析を併用した検討を行ったところ、有機/無機接合界面でのアンモニア生成と導電性ポリマーバルクでの過塩素酸アンモニウムへの物質変換の組み合わせで窒素固定反応が進行していることが示唆された。また、窒素固定反応の湿度依存性の検討や、導電性ポリマー以外の通常ポリマーを用いた実験結果から、アンモニア生成には水分子が関与していること、および導電性ポリマーが持つ固有の化学活性種(ポーラロン・バイポーラロン)が固定化反応に寄与していることがわかった。以上の結果から、本窒素固定化反応を説明できる反応式群を4組提唱し、そのいずれかの組、あるいはそれらの組み合わせで本窒素固定化反応が進行していることを提示できた。 今後はここで得た結果を基に窒素固定化システム・プロセスの高効率化を検討し、材料面から実用デバイスへの応用に展開していく予定である。
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