本研究は、穏和な反応条件下で多層カーボンナノチューブを合成するための金属担持触媒の開発を目的とし、以下の研究成果を得た。 水・トルエン二層系溶媒に相間移動触媒、保護剤であるドデカンチオールを加え、塩化金(III)酸イオンの水素化ホウ素ナトリウム還元により1.5nmドデカンチオール保護金ナノ粒子を調製した。こうして得たドデカンチオール保護金ナノ粒子を150あるいは190℃で固体状態のまま熱処理し、それぞれ3.4±02、5.4±0.7nmに粒径を成長させ、さらに酸化物担体(Si0_2、Al_2O_3など)上に含浸担持させることで触媒を調製した。空気中でドデカンチオール保護金ナノ粒子担持触媒を250〜400℃で0.5〜1時間加熱するだけで、多層カーボンナノチューブの生成が透過型電子顕微鏡観察によって確認できた。このような低い温度でカーボンナノチューブが生成した例は他に認められない。加熱により触媒活性サイトと考えられる金ナノ粒子と担体との間の接触界面が効果的に形成され、この活性サイトにおいてドデカンチオールの脱水素・炭素化が進行してカーボンナノチューブが生成したものと考えている。すなわち、保護剤が前駆体となり、原子状炭素にまで分解されなくても良いため低温で生成したものと推察できる。担体の種類、金の粒径、加熱温度、加熱時間を変化させると生成したカーボンナノチューブのサイズ(層数、長さ、および径)、形態(折れ曲りの有無、先端部の開閉、長さと径の比、チューブ内への金粒子の存非など)が大きく変化することが分った。このような変化傾向を系統的に検討することによってサイズや形態の制御および生成機構を今後明らかにする予定である。
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