本研究は、穏和な反応条件下で多層カーボンナノチューブ(MWNT)を合成するための金属担持触媒の開発を目的とし、以下の研究成果を得た。 塩化金(III)酸イオンの水素化ホウ素ナトリウムを用いた液相還元により調製したアルカンチオール保護金ナノ粒子を酸化物担体上に含浸担持させることで触媒を調製した。空気中でドデカンチオール保護金ナノ粒子担持触媒を150〜400℃で0.5時間加熱するだけで、径が5〜30nmのMWNTの生成が透過型電子顕微鏡で観察できた。シリカ、アルミナ、チタニアの担体でもMWNTが生成し、担体の酸性度などの因子によるMWNTの生成量や形状に変化は認められなかった。保護剤として、オクタデカンチオールを用いた時の方が、ドデカンチオールよりも径が大きいMWNTが生成した。炭素源となるドデカンチオールを過剰に添加したり、炭素(MCMB)を担体としてもMWNTの生成量は増加しなかった。遷移金属を触媒とした場合には、MWNTの径は触媒金属と同程度となることが報告されているが、本研究の金ナノ粒子(2nm)はMWNTの径よりも小さく、MWNTの生成温度も低いことから、従来提案されている原子状炭素を経るのとは異なるメカニズムで生成している可能性が示唆される。加熱反応後の触媒をトルエンで抽出して回収した成分を超精密質量を測定できるESI FT-ICR MSにて分析した。その結果、m/zが1000以下の範囲では、質量がCH_2に対応する14.015Daづつ異なる一連の化合物が認められ、アルカンチオール保護剤の分解が示唆された。一方、m/zが1000以上では、質量が74.01Daづつ異なる一連のピークが認められ、この質量差はC_6H_2(2つの縮合芳香環の変化)に対応している。すなわち、一連の縮合芳香族化合物が分子状中間体として存在すことが示唆される。
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