本研究期間において、我々が注目しているポリエーテルのうちロンギレンペルオキシド(1)およびエポキシトリ-THFジオール(2)に焦点を当てた。1は糸川らによりEurycoma longifoliaから単離、構造決定されたトリテルペンポリエーテルでKB細胞に対して細胞毒性を示すことが報告されているが(IC_<50>=5.3μg/mL)、絶対配置については未決定であった。1の構造は8個の不斉炭素、生合成的にスクアレンのポリエポキシドが環化したと思われる3つのテトラヒドロフラン(THF)環、ヒドロペルオキシ基の存在によって特徴づけられる。我々は1の側鎖部分を除いたC_2対称構造に着目し、分子の対称性を利用した二方向延伸反応の概念を基本戦略として1の全合成を計画した。その結果、(-)-ロンギレンペルオキシドの初めての全合成を達成するとともに、未解明であった絶対配置を決定することに成功した。 一方、2はJacobsらによりみかん科植物助Spathelia glabrescensから単離された化合物である。生理活性については、単離された量が微量なためか報告はないが、類縁体との構造的類似性から細胞毒性を有することが期待される。構造については、主にNMRにより平面構造が決定され、立体構造についても一部は解明されたものの、分光学的手法による技術限界のために完全帰属には到っておらず、他の方法による解決が望まれていた。今回本研究において2の可能な立体異性体を予測し、それらの全合成を達成した。そして未解明であった2の完全立体構造を決定した。 このように、分光学的手法だけでは解明されていなかった立体構造決定についての問題を、合成化学的手法を用いて解決することに成功した。
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