研究概要 |
本研究の目的は,無色のAs(III)-APDC錯体(APDC:ピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム)を黄色のCu(II)-APDC錯体に変換し,固相吸光光度法により間接的にヒ素を定量する方法を確立することである。ヒ素(III)-APDC錯体の銅(II)-APDC錯体への変換は選択的ではないので,あらかじめヒ素を他の妨害イオンから分離しておくことが必要である。ジエチルジチオカルバミン酸塩(以下DDTCと略す)と微細なイオン交換樹脂を用いる固相抽出において,金属イオンの抽出に及ぼすpHの影響を検討した結果,ヒ素(III)はpH3以下及びpH7以上では抽出されないこと,ヒ素(V)は広いpH範囲で抽出されないこと,他の多くの金属イオンはpH7以上及びpH3以下において抽出されることを見出した。また,ヒ素(III)はpH3以下において,APDC錯体として樹脂相に抽出されること及びヒ素(V)はチオ硫酸イオンによりヒ素(III)に還元されることから,分析法を次のように設計した。(1)DDTCを用いて,pH7.2で固相抽出した後,ろ液のpHを3に調節し,再び固相抽出することにより,ヒ素(III)及びヒ素(V)をろ液に残したまま他の金属イオンを抽出分離する。(2)ろ液のpHを1.2とし,チオ硫酸ナトリウムとAPDCを加えてヒ素(III)-APDC錯体を微細なイオン交換樹脂に抽出する。(3)樹脂を母液から分離した後,銅(II)を含む溶液に懸濁させ,ヒ素(III)-APDC錯体を銅(II)APDC錯体に変換する。(4)樹脂をメンブランフィルターに薄層として捕集し,441nmで反射吸光度を測定する。この方法を標準試料(JAC0032)に適用し,他の金属イオンの共存下にヒ素が定量できることを確認した。
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