天然に存在する水試料、例えば、河川水、湖水、海水、湧水などは、元素組成は測定されているが、「ある元素がどのような化学形で溶けているか」という点までは、これまでは検討されてこなかった。本研究の最終的な目標の一つとしては、シリカの化学種を全領域の水試料に対して同定し、それぞれのシリカにおける特性からシリカの物質循環を解明することにある。 シリカはナトリウムやカルシウムイオンの塩に溶けた水溶液中に容易に溶けることが知られている。天然の水には、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンなどのイオンが溶解しており、その割合はさまざまである。河川水が海水と混ざる環境下において、いわゆる凝析や塩析などの現象が、シリカが溶存している状態から析出して固体へと変化があるが、その化学的なメカニズムはわかっていない。このような現象をシリカの分子レベルでの解析を用いることによって、実験室レベルで詳細に条件設定をし、説明づけようと考えた。その結果、シリカは容易にナトリウムイオンとプロトンがイオン交換したり、カルシウムイオンとは二座配位で安定な錯体を形成したり、逆にリチウムやマグネシウムは、シリカとは錯体を形成しことがわかった。本来、溶存シリカは単量体であると考えられていたが、本研究からシリカは二量体と四量体が安定であることがわかり、溶液中には一量体から六量体まで溶解できることもわかった。 このようにして「天然水試料に適用するためのシリカ化学種の測定方法の確立とデータの集積」を課題とした研究を行った。基礎的なデータの集積に基づき、研究申請の最終年度には、天然の温泉水に含まれるシリカ化学種の同定と沈殿したシリカの形成過程、また深層水に含まれるシリカ化学種の同定までデータを蓄積することが出来た。
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