研究概要 |
多座配位子が関与する配位子置換反応の速度定数を定量的に予測する場合に必要となる多座配位子の電子供与定数(以下、E値)を求め、多座配位子のE値がどのような関数で定量的に記述できるかを考察することを目的とした研究等を実施して以下の成果を得た。 1.結合配位子Aとしてピリジン、3-メチルピリジン、3-シアノピリジンを選び、そのニッケル(II)錯体NiA(電荷は省略)と1,10-フェナントロリン(phen)との錯形成速度を追跡・解析し、d[Ni(phen)^<2+>]/dt=k_<Ni>[Ni^<2+>][phen]+k_<NiA>[NiA][phen]で定義されるk_<NiA>を求めた。このk_<NiA>からNiAの配立水分子交換速度定数k_<NiA>^<-H2O>を評価し、このk_<NiA>^<-H2O>からピリジン類のE値を考察した。その結果、ピリジン類のE値を求める場合には、律速段階の前平衡におけるAとphenとの疎水相互作用を考慮する必要があるとの結論を得た。 2.Aがビピリジン、テルピリジン、ピコリン酸、ジピコリン酸の場合について上記1.の研究を展開し、これらのE値を求めた。その結果、多座ピリジン類のE値は、配位官能基のE値にこれらと隣り合う基の隣接効果を考慮することにより定量的に記述できるとの結論を得た。 3.Aがフタル酸、アントラニル酸、o-フェニレンジアミン、安息香酸およびアニリンの場合について上記1.の研究を展開し、これらの芳香族多座配位子のE値も上記2.と同じ方法で定量的に記述できるとの結論を得た。また、このようにして評価したE値を用いれば、NiA錯体の生成定数K_<NiA>をlogK_<NiA>=αE(A)+βH(A)で解析すればAの塩基性定数H(A)が評価できるとの見通しを得た。また、これらのパラメーターを用いて、我々がこれまでに開発した速度差分析法における反応系の選択、反応条件の最適化の妥当性等についても検討した。
|