研究概要 |
キレート配位子による溶媒抽出系において見られる抽出挙動の差異は、主として抽出に用いるキレート配位子と対象の金属との錯体の安定度に依存する。一般的には電荷が大きく電荷密度の高いイオンは安定な錯体を作り、抽出されやすいことが知られている。また配位子場による安定化も抽出挙動に影堺を与え、2価遷移金属イオンにおいてはIrving-Williamsの系列で知られるような傾向を見せる。β-ジケトンの一種であるアシルピラゾロン類の抽出挙動も概ねこのような傾向に従う。 一方、中性大環状配位子であるクラウンエーテル類は、親水性の空孔に金属イオンを取り込むことによって金属イオンと錯形成する。クラウン錯体の安定度はクラウンエーテルが持つ空孔径と金属イオンの直径の適合性に依存するため、クラウンエーテル類はキレート配位子と異なりそれぞれの持つ空孔の大きさに応じた、ユニークなイオンサイズ選択性を示す。これらのことから、この両方の部位を併せ持つ配位子はキレート部位のみを持つ配位子では見られないユニークな抽出能を持つことが期待される。本研究においては分子内にアザクラウンエーテルを有するアシルピラゾロン化合物を合成し、2価遷移金属イオンに対するその抽出・分離能を検討した。 側鎖に1-aza-18-crown-6又は1-aza-15-crown-5を持つアシルピラゾロンである化合物HPMP-A18C6およびHPMP-A15C5を合成した。0.1M(CH_3)_4NClと0.01MのpH緩衝剤および0.1mMの金属イオンを含む水相5mlと、抽出試薬として化合物HPMP-A18C6あるいはHPMP-A15C5を0.01M含むクロロホルム相5mlを平衡に達するまで振とうした。水相のpHを測定後、クロロホルム相を硝酸溶液によって逆抽出し、正抽出および逆抽出水相中の金属イオン濃度をICP-AESによって測定した。以上の実験を2価金属イオンMn^<2+>,Co^<2+>,Ni^<2+>,Cu^<2+>,Zn^<2+>,Pb^<2+>に対して行ったところ、Cu^<2+>を除く全ての金属について半抽出pH値(pH_<1/2>)が、HPMP-A18C6,HPMP-A15C5ともにクラウンエーテルを持たない配位子であるHPMBPよりも低くなった。即ち、HPMP-A18C6,HPMP-A15C5のこれらの2価金属イオンに対する抽出能はHPMBPより高いといえる。特にPb^<2+>に対しては顕著な抽出能の増大がみられ、HPMP-A18C6においてはCu^<2+>を上回る高いものとなった。このHPMP-A18C6の選択性は従来の配位子とは大きく異なっている。
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