本研究は、モリブデンイオンと還元剤の共存下でリン酸イオンからリンモリブデン酸を経てモリブデンブルーを生成させ、分子量分画カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより分離した後分解し、遊離したモリブデンイオンを吸着濃縮と接触反応を併用したストリッピングボルタンメトリーで定量することにより、リン酸イオンを間接高感度定量するものである。まず、pH2付近でモリブデンブルーを生成させ、分離を試みたところ、排除限界分子量3000の水系カラムGS220HQでは、モリブデンイオンや還元剤の信号は良好に検出できるものの、リン酸イオンの有無で顕著な違いは認められなかった。一方、排除限界分子量2000の水系カラムGL-W510では、リン酸イオンの濃度に応答するピークが、保持時間14.5分付近に認められた。現時点ではテーリングにより、リン酸イオン濃度に対する応答は直線的ではないが、溶離条件をさらに検討することにより、改善が可能であると考えている。また、ボルタンメトリーによるモリブデンイオンの検出下限改善のためにマンデル酸誘導体を用いて、検出感度に及ぼす各種の因子について検討した。その結果、3-クロロマンデル酸の場合に5pMの検出下限が得られた。この配位子による検出感度は1900nA/nM/minであり、モリブデンイオンとして0.3pM、リン酸イオンとしては0.03pMの検出下限に対応する極めて優れた検出法である。その他、4-クロロ並びに4-ブロモマンデル酸もまた、高感度定量のために用いることができることが明らかになった。さらには、水銀電極から吸着配位子への逆供与が吸着過程において重要であり、電子吸引性基が導入されれば、接触反応速度が増大することが分かった。また、リン酸イオンを含む各種イオンのスペシエーションの標準化のための検討や、光分解反応についての研究も行った。
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