ショウジョウバエのmtr^2突然変異体では、動原体部分で染色体の切断が頻度高く観察されることから動原体部位の構造が脆弱になっていると考えられる。この突然変異はIn(1)w^<m4>における遺伝子発現の抑制を解除することからmtr^2突然変異体において変異をおこしている遺伝子がヘテロクロマチンの構成タンパクをコードしており、この遺伝子の変異により、ヘテロクロマチン量が減少して動原体部位の構築が影響を受けたと考えられた。mtr^2変異体の細胞は姉妹染色分体の接着がmetaphaseまで維持できない。anaphaseにおいても染色分体の移動が途中で停止し、染色分体が過剰に凝縮していた。このanaphaseの細胞ではサイクリンBが分解されずに残存していた。したがってこの突然変異体の細胞では微小管のキネトコアへの付着を認識するチェックポイント機構、さらにその後におこる染色分体の移動も阻害されていると考えられる。以上の観察結果からmtr^2変異体の細胞では動原体の構築ができず、動原体の種々の機能も損なわれていると考えられた。mtr^2は細胞分裂に関わる2つの遺伝子、すなわち減数分裂の開始に関わるmtr遺伝子とヘテロクロマチンの構築に関わる新規の遺伝子l(3)acc6487の2重突然変異体であることがわかった。mtr^2突然変異そのものは雌雄不妊突然変異であり、この変異だけをホモにもつ雄は、減数分裂の際に染色体およびミトコンドリアの分配が異常となる。またこの雄の減数分裂が早期に開始されることもみいだした。この早期開始が不等分配の原因となるM期微小管構造の異常と密接に関連している。mtr遺伝子のクローニングをおこない、この遺伝子産物は新規の疎水性タンパクであり、ヒトの自己免疫疾患の原因タンパクのひとつLupas抗原と相同性の高い領域を持つ疎水性タンパクであることをみいだした。
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