Drosophila sechelliaとD. melanogaster欠失変異体との交雑F1個体を用いたカプロン酸選好性試験を行ったところ、特定のD. melanogaster欠失変異体でカプロン酸忌避性が失われることがわかった。このような欠失染色体は3つあったが、既存のデータに基づく限りそれらのすべてで共通に欠けている領域は存在しない。既存のデータは唾腺染色体の観察により得られたものであり正確性にかけていると考え、この欠失染色体の断点の位置をPCRマーカーにより約10kb刻みで検討した。これにより3つの欠失染色体いずれにおいても欠けている領域が存在し、その大きさが80kbであることがわかった。D. melanogasterのゲノムプロジェクトによると、この中には22個の遺伝子が推定されている。これらのそれぞれにプライマーを設定し、RT-PCR法により転写産物の有無を確かめたところ、D. secnelliaにおいてもいずれの遺伝子も転写されていた。よってD. sechelliaにおいては遺伝子転写ではなく、遺伝子産物の構造に影響を与えるような変異が起きていると考えられる。この程度のゲノム領域はD. sechelliaにおいても連続性が保たれている可能性が高いと考え、D. sechelliaの対応ゲノム領域をクローニングすることにした。D. sechellia ss86系統よりcosmidライブラリーを構築し、プローブとしてD. melanogasterの配列を元にデザインしたプライマーによりD. sechelliaゲノムDNAをテンプレートとして増幅した断片をもちいてスクリーニングした。数個のクローンが得られたのでこれを全長配列決定し、D. melanogasterのゲノム配列と比較することにより原因遺伝子座を推定した。
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