研究代表者は「染色体放出を行うメクラウナギ目魚類の放出DNAに含まれている遺伝子を検出・解析する」ことを目的として、本研究では5S rRNA遺伝子の検出・解析を行った。研究初年度に設けた以下の4つの作業目標、1)本邦産のヌタウナギ生殖細胞から生殖細胞特異的5S rDNAの検出・解析、2)同種の体細胞と生殖細胞から生殖細胞特異的でない5S rDNAの検出・解析、3)5Sr DNAの遺伝子座の決定、4)他の染色体放出を行うメクラウナギ目各種の5S rDNAの検出・解析、はこの3年間で達成できた。上記の1〜3の結果から、ヌタウナギは2種類(生殖細胞型と体細胞型)の5SrDNAを持ち、生殖細胞型は生殖細胞特異的であること、遺伝子領域(120bp)の塩基配列が両型では9〜11塩基異なること、NTS領域の配列も両型で大きく異なり、さらに多量かつ多様な偽遺伝子も存在すること、生殖細胞型は染色体放出時に選択的に放出する16本の染色体に座し、体細胞型は染色体放出時に失われない2対(またはそれ以上の)染色体上に座すこと、が判明した。この結果は、染色体放出によりこの種が捨てる遺伝子の初めての発見である。またRNA解析から両型の遺伝子は共に転写活性を持ち、生殖細胞では両型、体細胞では体細胞型のみが転写されていることが判明した。これはこの種の5S rDNAの発現は脊椎動物の幾つかの種ので知られるDual Expression System(DES)に依存し、またそれは染色体放出によって制御されていることを表している。4の結果から、5S rDNAの分化はメクラウナギ目とヤツメウナギ目の分化後、メクラウナギ目各種の種分化前に生じていること、また染色体放出による5S rDNAのDES制御はメクラウナギ目魚類に共通の現象であることを示唆している。研究成果はこの3年間に3回の国内学会と国際遺伝学会(2003年7月、メルボルン)で発表、また現在2編の英文公表論文を作成中である。
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