食物網動態は、その成立する環境の生産性要因と環境ストレスの双方によって制御されていると考えられるが、従来の理論および実証研究では、両要因のどちらかだけが食物網制御機構に及ぼす影響が扱われてきた。そこで、岩礁潮間帯生物群集をモデル系に選び、「生産性要因」と「環境ストレス要因」を同時に実験操作することで、無機環境要因が食物網構造制御機構に及ぼす複合的影響を明らかにした。実験は、」北海道の岩礁潮間帯に成立する海藻(葉状海藻と糸状海藻)-カサガイ(大型植食者)優占群集を対象に、生産性要因(栄養塩レベル)と環境ストレス(乾燥度)を同時に操作することで行った。その結果、乾燥ストレスと栄養塩レベルは、海藻-カサガイ優占群集に対し、相互が独立して影響を及ぼしていたことが判明した。また、両要因は、海藻と小型植食者であるヨコエビを減少させるカサガイの植食の効果には影響をおよぼさなかった。乾燥ストレスは、一部の海藻榛状海藻)を減少させることを通し、間接的に糸状海藻を増加させ、また餌と住み家を減少させることで間接的にヨコエビを減少させた。栄養塩レベルの上昇は、海藻類を増加させ、その結果ヨコエビを増加させていた。これらの結果は、生産性要因(栄養塩レベル)と環境ストレス(乾燥度)の変化は、植食圧(トップダウン効果)に直接的に影響するのではなく、一次生産者(海藻)を変化させることをとおし(ボトムアップ効果)、その影響が食物網動態に影響することを示す。これらのことは、食物網動態の制御機構に関する2大仮説である環境ストレス仮説と消費生態系仮説のうちの後者を強く支持する。
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