巨大コロニーを造るエゾアカヤマアリ、ツムギアリ、軍隊アリ3種について研究を行った。エゾアカヤマアリについては、北海道石狩海岸に広がるスーパーコロニーの15巣および札幌近郊に分布する小型4コロニーの各1巣からアリを採集して行動観察を行うとともに、DNAを抽出し、4つのマイクロサテライト・プライマーを用いてコロン内およびコロニー間の」血縁度(ケラー・グッドナイト指数)を測定した。その結果、多女王化しやすいこのアリではコロニー間の敵対性が低いものの、ワーカーから女王への給餌行動、ワーカー間の噛みつき行動、ワーカーによる幼虫の世話、ワーカーの自己グルーミングの頻度が、同一コロニー個体間よりも異コロニー個体間で有意に低かった。そこで、スーパーコロニーの巣間でこれらの行動を観察したところ、同巣個体間と異巣個体間で有意な差は見られなかった。小型コロニーのコロニー内血縁度は0.126〜0.473、コロニー間血縁度は-0.282〜0.096であるのに対し、スーパーコロニー内の巣間血縁度は0.148〜0.343であった。巣間の距離と血縁度には有意な相関が見られず、スーパーコロニーの維持機構と考えられてきた高い遺伝的粘性は検出できなかった。 ツムギアリについては、これまでにアジア・アフリカの30個体群から採集したコロニーの分子系統解析を行い、1)アジア・オーストラリア産とアフリカ産は別種、2)前者は、オーストラリア・ニューギニア系、スラウェシ系・その他のアジア系に別れる、3)アゾアからオーストラリアヘの分散は、スンダ列島経由よりもスラウェシ・マルク諸島経由の可能性が高い、ことなどが明らかとなった。 軍隊アリとしては・オーストラリアのOnychomyrmexとボルネオ島のLeptogenys2種の生態研究を行った前者は最も原始的な系統の軍隊アリであり、採餌法に他の高等な軍隊アリと異なる習性が見られた。後者では放浪性を二次的に失った行動もみられ、その採餌法に関する詳しい情報を得ることができた。
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