研究概要 |
前年度に引き続きアリをモデル生物に,社会性昆虫の赤の女王説の理論体系を実証的に検討した.前年度途中で研究代表者の辻が琉球大学に異動したため,沖縄のアリを用い実験系を組むべく材料のスクリーニングを行った.現在のところ,トゲオオハリアリに糸状菌Beauveria bassianaの寄生が確認されている.そこで,この菌とこのアリのペアで室内実験系を確立する前に,森林総研の実験フィールドでカネタタキを用い,土壌中の菌濃度と感染率の関係を調べる予備研究を行った.昨年までの研究で,アリの巣には他の土壌より高濃度に伝染性病原菌が蓄積し存在することが示されているが,カネタタキのメスにはアリ同様翅がなく,オスも発音する羽のため飛翔ができないことから移動能力が小さいため,もし流行病が起きた場合は感染源が付近に集中分布し存在すると考えられること,および,容易に採集可能で飼育により感染率が調査しやすいことから調査昆虫として選定した.結果,菌濃度と感染率には正の相関関係が見られ,B.bassianaはカネタタキの一般的な病源体であると考えられ,この病原体密度の高いところでは流行病がおきやすいと推察された.並行して,前年度行ったトビイロケアリを用いた,コロニーサイズと寄生リスクの関係に関する実験の予想外の結果,すなわち菌を低濃度で全体に散布した区では,菌を散布しなかったコントロールよりも有意にアリの死亡率が減少するという現象のメカニズムを知るためアリの行動観察を行った.結果,低濃度菌散布時にはアリの集合行動やグルーミング行動が触発されるようであった.
|