アリをモデル生物に、社会性昆虫の赤の女王説の理論を実証的に検討した。主な成果は以下の通り。(1)トビイロケアリの女王において、巣創設時に既存の同種コロニーの巣材を利用させると、死亡率が上がることが判明した。主な原因は様々な昆虫寄生性病原糸状菌であった。感染による死亡率は、後胸側板腺の操作や、女王を世話するワーカーの存在によって影響を受けなかった。この結果は、なぜ多くのアリにおいて、新女王が母巣を継承せず独立するのかを説明できる。(1)トビイロケアリのワーカーを、自巣の巣材および他巣の巣材の中で飼育すると、両者で死亡率に差が出た。前者で死亡率が下がることが多いが、逆の場合もあった。この説明として、寄主遺伝子型×病原体遺伝子型の相互作用、特異的記憶性免疫の存在、他巣の匂いに曝されたことによるストレスがあげられた。さらに、土壌を、オートプレーブで滅菌したもの、ガンマー線により滅菌処理したものを用い、無滅菌のコントロールと比較した。ガンマー線滅菌はオートクレープ滅菌より非破壊的であるため、匂い成分の変化が少なく、ストレス原因説が正しければ本処理区でも無滅菌処理区と似た結果がでると期待された。結果、生存日数に関して無滅菌処理区でのみアリのコロニーの由来と土壌の由来の間に有意な相互作用が見られ、匂いストレスではなく菌との相互作用の関与を主張する仮説を一部示唆する結果が得られた。(3)大きなコロニーほど菌の感染のリスクが高いため、病原菌存在下では小さなコロニーが進化するとの仮説を実験的に検証した。しかし、感染死亡率には予測したようなコロニーサイズ処理区間の差異は認められず、低濃度暴露で死亡率が下がるという予想外の結果が得られた。(4)野外において様々な昆虫寄生性菌類が新発見された。
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