研究概要 |
一般に,飛び火は極めて稀な事象であることから確率的なプロセスとして捉えなければならない.特に,分散個体が定着に成功するかどうかは,人口学的確率性やアリー効果の存在により大きく左右される.さらに,分散個体の出現速度はローカルな個体群動態によって規定される.これらの側面を適切に組み入れた侵入生物の分布拡大に関するモデルとして,Kot, Lewis and van den Driesscheによって提出された差分積分モデルの確率論バーションを構築し,確率効果が侵入速度に及ぼす影響について解析した.即ち,Kotらのモデルでは増殖と分散が決定論的に繰り返されるが,それらを確率的に取りいれる数学的枠組みを構築した.前者の増殖は平均値が対応する決定論的モデルの増殖率に等しく、また、標準偏差が平均値のα倍の値を取る二項分布に従うとした.これにより,αの値に依存して,増殖の確率性の程度を変えることが出来る.また,後者の分散は、確率密度関数である分散カーネルに従うとした。本確率モデルをコンピューターシミュレーションにより解析したところ,対応する決定論モデルと比べて,拡大速度が20-30%減少することが判明した.また,この結果はパラメターの値にほとんど依存しないため,一般に,確率効果は伝播速度を下げると結論される.現実の侵入過程は確率的であることから,これまで決定論的モデルで予測していた伝播速度は過大評価であったと言える. さらに,増殖ならびに分散における確率効果のどちらが大きく速度低下に寄与しているかを,αの値を変化させることにより調べた.その結果,増殖の確率性は速度にほとんど影響を与えることはなく,もっぱら分散の確率性が速度低下に寄与していることが明らかになった.
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