当初、雌性先熟性転換を行うベラ科魚類は1〜2日間しか両性的配偶行動をとれず、その後すみやかに転換後の性の配偶行動のみをとるようになると考えていたが、平成14年度にアカニジベラで調査したところ、予想に反して1週間以上も両性の行動をとれることが分かった。しかし、調査地の海水の濁りのために詳細な観察を行うことができなくなり、この研究は継続不可能となった。そこで、ベラ科魚類の雄の繁殖行動の可塑性にテマを拡大して調査したところ、本年度の調査では、ミツボシキュウセンの一次雄が自然条件下で雌に逆方向性転換した例を発見し、性転換魚類の性的資源分配が極めて可塑的であることがわかった。さらに、ミツボシキュウセンの一次雄は、スニーキング、ストリーキング、グループ産卵など多様な繁殖戦術を状況に応じて使い分けていることが明らかになった。 一方、もう1つの調査対象であるイソアワモチは、近年相次いで発生した沖縄沿岸の異常潮位(高潮)によって壊滅的な打撃を受け、調査可能な個体数を確保できなくなった。平成15年度には個体数がある程度回復したが、繁殖可能なサイズの成熟個体が少なく、効果的な調査が行えなかった。そこで調査対象を、同じく雌雄同体であるが、イソアワモチのように雄役/雌役がはっきり分離しているのではなく、毎回の交尾で同時に雄役/雌役をとる(と思われる)ウミウシに変更して調査を行った。サラサウミウシを主な対象として実験を行ったところ、既に交尾を行った個体は、連続での交尾を拒否する特徴的な行動をとることが判明した。これは、雌雄同体の軟体動物は精子を受け取ることが有利になるため、雌役での交尾を望んでいるという、これまでの理論に反した結果である。
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