研究2年目の今年度は、近縁種間あるいは同一種内において、精子の形態、交尾器、配偶行動にどのような変異があるか比較研究を行うために、カワトンボ属とコサナエ属について、DNAに基づく詳細な系統解析および集団遺伝学的解析を行った.日本産カワトンボ属の分類に関しては研究者によって大きな意見の食い違いがあった.こうした分類学的意見の不一致が、その行動や生態に関する比較研究を困難にさせてきた.今回日本産カワトンボ属約750個体について、ITS1領域(核DNA)の塩基配列と外部形態を比較した結果、本属は2種に区別された.しかし、交尾器形態に関しては明らかな区別点が認められなかった.この分類方法は、従来のどの方法とも異なっていた.また、伊豆半島から山梨県南部にかけて両種の交雑由来と考えられる集団が存在した.この交雑由来集団は両種の中間的形態を有していた.日本産コサナエ属4種(約120個体)については、ITS1領域(核DNA)の塩基配列に基づく系統解析から、従来の分類体系が支持された.交尾器形態に関しても4種の間で明らかな相違が認められた.カワトンボ属の種分化はコサナエ属4種の種分化より新しいと考えられた.こうした、系統関係を考えあわせ、今後、精子の形態と配偶行動の関連をさらに明らかにする必要がある.
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