近年世界各地で増加傾向が確認されている太陽紫外線は水中にも透過して生物の活性と増殖に影響を与えている。本研究は湖沼の植物プランクトンと河川の付着藻類を対象生物として紫外線が光合成活性に与える阻害作用を解析するとともに、その結果として藻類個体群の生残と増殖への影響を野外条件下で実測することを目的とした。 緑藻クロレラの培養標品と、湖沼の植物プランクトンについて以下の研究結果を得た。クロレラは太陽光によって光合成と細胞増殖能の低下を示した。光合成の低下には太陽光中の紫外線A(波長320-400nm)が強く関与していた。増殖能の低下には強い可視光線(波長400-750nm)、紫外線Aおよび紫外線B(波長280-320nm)のいずれもが関与していたが、細胞中のDNA損傷(指標としてチミンダイマー生成量を測定)には紫外線Bのみが作用した。損傷を受けたDNAは照射後に修復されることが確認されたが、その際に可視光線があると回復が速くすすむので核酸の光修復メカニズムが関係していることが明らかになった。浅い池沼から単離した緑藻Schredelia sp.と珪藻Nitzschia sp.を対象として、寒天培地上のコロニー形成を指標とした生残(増殖能の喪失有無)に対する紫外線の影響を測定したところ、晴天時における紫外線B強度では4時間程度で100%近い致死効果が認められた。これらの太陽紫外線の影響は、湖の浅い水深で起こることが証明されたが、本研究では藻類細胞を一定の深さに固定し測定したので、実際に混合攪拌が起きる湖水中での証明が今後の課題である。 野外の植物プランクトン個体群について、その光合成速度を酸素法と13C法によって測定した。その結果、紫外線Aが多く含まれる天侯条件(晴天時)と浅い水深では光合成速度が大きく低下することが実証された。同時に水中の紫外線強度が動物プランクトンの垂直分布、昼夜移動に大きく関与していることが解析された。
|