研究概要 |
本研究の目的は,質の異なるいくつかの生息地からなる環境において,局所的には存続できない群集が,生息地間を移動することにより,広域で存続できるようになるかどうかを明らかにすることである。 まず,被食者を共有する2種の捕食者間の資源利用競争の場合を,飽和型の機能の反応を仮定して調べた。その結果,局所的な競争で優位な種の移動率が,劣位の種の移動率より高いときに2種の共存が実現することが明らかになった。これは多くの場合に言われる「競争と移住のトレードオフ」仮説に反する。しかし,2つのパッチの生産力が異なれば,個体群の流れはより豊かなパッチからより貧しいパッチへ向かう。したがって,個体群のパッチ間移動は,より豊かなパッチでは死亡と同じ働きをする。優位な種の移住率が高いときに,劣位の種が絶滅を免れ,2種共存が実現することは極めて自然なことである。 次に,ロトカーボルテラ型の相互作用をする3栄養段階の食物連鎖を考えた。食物連鎖の上位の種の移動は,貧しい生息地での捕食圧を高めるトップダウンの影響を与え,下位の種の移動は,貧しい生息地で資源を増やし上位の種の存続を容易にするボトムアップの影響を与える。こうして,より貧しい生息地で存続が可能になった消費者や捕食者が生息地間を移動すれば,双方の生息地で存続することができるようになり,食物連鎖は長くなる。 このように,不均一環境における移動・分散の役割は,異所性入力と補助効果の観点から眺めることにより,極めて理解しやすいものとなることが明らかになりつつある。
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