研究概要 |
アメリカシロヒトリ(Hyphantria cunea Drury)は、約半世紀前に北米から日本に侵入した鱗翅目ヒトリガ科に属する侵入害虫である。筆者のこれまでの研究により、日本の西南部では、本種の生活史が1年に2世代を繰り返す2化性から3世代を繰り返す3化性へと、侵入後に変化したことが明らかとなっている。本研究では、1)この生活史特性の変化が、最初の個体群が持っていた生活史特性が、侵入後に変化したことにより生じたのか、あるいは2)現在の3化性個体群が示すような生活史特性を持った新たな個体群が、再侵入することにより生じたのかを明らかにすることが目的である。 本年度は、日本の14の地理的個体群とアメリカの2個体群、韓国の1個体群の核ゲノムの領域について解析を行った。解析に使用した領域は、mtDNAよりも多くの変異が期待されるリゾチーム遺伝子のイントロン部分である。リゾチーム遺伝子は、本種でcDNAから得られた塩基配列が既に報告されている。また、タバコスズメガではこの遺伝子はシングルコピーであることが報告されている。 解析の結果、イントロンの長さには1,184bpから1,197bpまでの変異が認められ、デリーション/インサーションがかなりあることが明らかとなった。しかしながら、同一個体から4種類の塩基配列が得られ、本種のリゾチーム遺伝子は少なくとも2コピー以上存在していることが明らかとなった。この結果から、リゾチーム遺伝子のイントロン部分は本研究の目的には適さない領域であると判断される。
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