研究概要 |
1.前年までに行なった,湿原中央で直交する長い調査線上の花粉分析によって明らかにした湿原の拡大,縮小の様子を,平面的により詳細に明らかにするための追加調査として,青森県南八甲田山地の矢櫃谷地湿原において,湿原周辺の低木群落から湿原内部にのばした4本の調査線沿いに植生調査,ボーリングによる火山灰層の調査と花粉分析用試料の採取を行なった. 2.テフラ降下後の湿原植生の回復過程を,従来の手法より1桁細かい時間精度で実証的に明らかにするため,同湿原の登山道脇の露頭から4枚のテフラを含む柱状試料を採取し,放射性炭素年代試料と,テフラ前後のミリメートル単位の花粉分析用試料を採取した. 3.年代測定の結果,テフラ前後の暦年代は,B-TmテフラがAD 980-1010年,To-aテフラがAD 1010-980年,To-bテフラがAD 130-250年であり,従来言われていた年代よりやや新しいが,矛盾のない結果が得られた. 4.植生調査の結果,新たにハイマツおよびチシマザサが優占する植生を含む24の植生調査票を得,これまでに高等植物の同定作業を終えた.引き続き,湿原の植生型を特徴づけるために重要なミズゴケ類の同定作業を継続中である. 5.To-aテフラの深度分布の解析の結果,湿原の北西側は他の縁辺部でみられるような堆積速度の低下がないことから,登山道を作る際にこの部分が削られたと考えられる. 6.西暦915年以降の本湿原の拡大,縮小の様子と,テフラ降下後の湿原植生の変遷を詳細に明らかにするため,表層とテフラ直下の花粉分析を実施中である.
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