植物の物質生産を考えるとき葉緑体(色素体)はもっとも重要なターゲットである。その機能は、核と色素体自身に分かれて保持されたゲノムのデュアル制御により保たれている。宿主核が共生進化を経てなおオルガネラにDNAを残している理由は何か。本研究はそのヒントを色素体DNAの転写機構の分子機構とその葉緑体発達と機能維持における生理的重要性の両面から解析することで得ようとした。真正細菌型色素体RNAポリメラーゼ(PEP)は核コードσ因子(シロイヌナズナでSIG1〜6)により制御されるが、葉緑体発達初期過程ではSIG2依存的に複数の色素体DNAコードtRNAの発現が誘導されて正常な葉緑体が発達するという発見がその成果である。これは色素体tRNAが従来の「tRNAは常に十分量存在する安定な分子」という概念を破る「動的律速因子」として機能している可能性を示唆する。さらにSIG2制御下にtRNAGluが含まれていたこと、sig2変異でT7ファージ型RNAポリメラーゼ(NEP)に依存的な転写が脱抑制されるという知見から、SIG2は単に翻訳系(タンパク質合成)の調節だけでなく、テトラピロールの合成を含めた包括的・共役的物質生産と二種類のRNAポリメラーゼのスイッチングにも深く関わっているようである。本研究の成果は、東大分生研から神戸大学に研究の場を移した今後の発展において重要な足がかりとなるだろう。また、同期間に精力的に取り組んだJCAA(シロイヌナDNAアレイコンソーシアム)の活動も今後具体的成果となって自分を含め多くの研究の発展に寄与するものと考えている。
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