本研究では、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)を細胞周期の中心的な制御因子として捉えて、その活性を制御するシグナル伝達機構の解明を目指して研究を遂行した。CDK活性化キナーゼ(CAK)はCDKをリン酸化することにより活性化する、細胞分裂の活性化因子である。シロイヌナズナの4種類のCAKホモログ(CAK1〜4)について機能解析を行なった結果、CAK2とCAK4が動物タイプの酵素活性を有することが明らかになった。つまり、CDKをリン酸化し活性化するCAK活性とともに、RNAポリメラーゼIIの最大サブユニットのC末端繰り返し配列(CTD)をリン酸化する活性も有することが明らかになった。しかし、CAK2はCDKを、CAK4はCTDをより強くリン酸化するという基質親和性の違いが観察された。一方、CAK1はCAK2とCAK4のT-ループ領域に存在するセリン・スレオニン残基をリン酸化し、少なくともCAK4のキナーゼ活性を正に制御することが明らかになった。以上の結果から、シロイヌナズナにはCDKやRNAポリメラーゼIIの活性を制御するリン酸化カスケードが少なくとも3種類のCAKにより構成されていることが示唆された。 一方、イネのサイクリンCYCB2;2をDEX依存的に発現する形質転換イネについて表現型解析を行った結果、DEXで処理した形質転換植物ではコントロールに比べて根の伸長が速いことが明らかになった。その際、細胞伸長には影響がないことが示されたことから、CYCB2;2の過剰発現により根端分裂組織における細胞分裂が活性化されたと考えられた。CYCB2;2はCDKB2と特異的に結合することがin vitroの解析から明らかになったので、CYCB2;2の過剰発現はCDKB2の活性化を介してG2/M期の移行を制御し、その結果根の伸長促進を引き起こすことが示唆された。
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