研究概要 |
サイトカイニンレセプターをコードしていることが遺伝学的に明らかになったAHK4の発現は根組織特異的であり、シュート部位での発現はきわめて低い。それゆえシュートにおけるサイトカイニンの生理学的役割はいまだ不明である。この点を明らかにする目的で、本年度はシュートで発現が認められるAHK4相同遺伝子であるAHK2と3に焦点を当てて研究を行った。 1)AHK2,3遺伝子のノックアウト変異体の検索 両遺伝子のT-DNA挿入変異体の検索を、かずさDNA研究所およびWisconsin大学のラインを対象に行った。その結果、AHK2遺伝子については2ラインが、AHK3遺伝子については2ラインの挿入変異体を同定できた。いずれの変異についても変異ホモ接合体を確立することができ、通常の生育条件においては何ら特異的な表現型を示すことがない。しかし2つのahk3変異体から調整したカルスはサイトカイニンに対する応答性が低下しており、AHK3がAHK4同様にサイトカイニンレセプターであることが証明できた。 2)多重変異株の構築 ahk2変異の2つのalleleは共に、種々のサイトカイニン応答が正常であり、サイトカイニンレセプターであるかどうかが判然としない。またAHK2,3両遺伝子の変異が単独では特異的な表現型を持たないことから、シュートの生長・分化におけるサイトカイニンの生物学的役割もまた判然としない。以上の点を解決する目的で、これらahk変異の二重欠損変異体を作製した。ahk2/ahk4ならびにahk3/ahk4の二重変異株は正常な植物体を形成するが、ahk2/ahk3の二重変異株は短い胚軸を持った芽生え、本葉の縮小に伴う小さなロゼット、短い花茎、等の多面的な表現型を示した。胚軸表皮細胞の数は胚発生段階で厳密に決められているが、ahk2/3二重変異株ではこの数が10%減少していた。これらの結果は、1)AHK2がAHK3と同じ細胞機能、すなわちサイトカイニンレセプターとしての機能を保持すること、2)AHK2,3、ひいてはサイトカイニンが細胞分裂活性を正に制御していること、を示している。
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