シロイヌナズナCDK inhibitor(KRP)遺伝子であるKRP2とKRP6を構成的に高発現する形質転換体を作出した。KRPの発現をタンパク質レベルで検出するため、ペプチド抗体を作製して特異的な抗体の精製に成功したが、形質転換体でKRPが高発現していることは確認できなかった。しかし、導入遺伝子に特異的なプライマーを用いたRT-PCR法により、形質転換した植物体で導入遺伝子が発現していることが確認された。葉を用いて細胞数と細胞の大きさを測定した結果、表現型が最も顕著に現れたKRP6-18系統では細胞数が野生型の約1/4に減少したが、個々の細胞の体積が増大し、最終的な葉の大きさは約2/3であった。 KRPの過剰発現体はこれまで様々な特徴をもつことが報告されているが、本研究では葉の形状を決定する要因の一つである側歯(lateral teeth)と分化の指標となるトライコームに着目して解析を行った。野生型では後から発生するロゼッタ葉ほど側歯が増える傾向が認められるが、KRP6-18系統では第7葉以降野生型より顕著に側歯の数が増えることが観察された。したがって、KRP遺伝子は葉の形状を積極的に制御する可能性が示唆された。一方、トライコームの形状は野生型とほとんど変わらないものの、細胞当たりのトライコーム数は野生型と比べてKRP6-18系統ではかなり減少していた。KRP6-18系統では細胞数は減少するが、個々の細胞の体積は増大したことより、葉の単位面積当たりのトライコーム数を算出したところ、野生型と同程度であった。よって、葉のトライコーム数は細胞数ではなく、葉の面積に対して一定の割合に保つ機構が示唆された。 なお、シロイヌナズナCDK inhibitor遺伝子を誘導的に発現する形質転換体を作出し、現在厳密に誘導発現される系統の選抜を行っている。
|