データベース検索によりシロイヌナズナには7種類の構造上類似したCDK inhibitor遺伝子(KRP1〜7)が存在することが判明し、RT-PCR法によりすべての遺伝子の単離に成功した。 次に、KRPと他の細胞周期制御因子との結合を解析するために、in vitro転写翻訳系を用いて[35S]標識した7種類のKRPタンパク質とHisタグを付加したサイクリンとCDKタンパク質を調製した。アフィニティーカラムを用いた解析の結果、KRP1〜6はサイクリンD2/CDKA複合体と結合したが、KRP7は結合が認められなかった。ヒストンH1を基質としたリン酸化実験系を用いて、KRPの阻害活性をin vitroで解析するため、大腸菌発現系を用いて可溶化されたKRP2、6、7タンパク質を精製してサイクリンD2/CDKAに対する阻害活性を評価した。これらのKRPはすべて量依存的に阻害活性を示したが、KRP2とKRP6は高い阻害活性を示すのに対し、KRP7は弱い阻害活性を示すことが分かった。 またKRP2とKRP6を構成的に高発現する形質転換体を作出した。KRPの過剰発現体はこれまで様々な特徴をもつことが報告されているが本研究では葉の形状を決定する要因の一つである側歯(lateral teeth)と分化の指標となるトライコームに着目して解析を行った。野生型では後から発生するロゼッタ葉ほど側歯が増える傾向が認められるが、KRP6-18系統では第7葉以降野生型より顕著に側歯の数が増えることが観察された。したがって、KRP遺伝子は葉の形状を積極的に制御する可能性が示唆された。一方、トライコームの形状は野生型とほとんど変わらないものの、細胞当たりのトライコーム数は野生型と比べてKRP6-18系統ではかなり減少していた。KRP6-18系統では細胞数は減少するが、個々の細胞の体積は増大したことより、葉の単位面積当たりのトライコーム数を算出したところ、野生型と同程度であった。よって、葉のトライコーム数は細胞数ではなく、葉の面積に対して一定の割合に保つ機構が示唆された。なお、シロイヌナズナCDK inhibitorが厳密に誘導発現される系統の選抜を行っている。
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