植物の自他認識反応のひとつである自家不和合性は、受粉時に、雌蕊側因子と花粉側因子との認識反応により、自己花粉との受精が抑制される現象である。申請者はこの認識反応の下流にCa^<2+>を介した情報伝達系があることを示唆する結果を得ている。本研究では、アブラナ科植物の受粉時における乳頭細胞と花粉でのCa^<2+>濃度の動態を明らかにするために、Ca^<2+>センサータンパク質であるyellow cameleon(yc)遺伝子を導入した形質転換体を作製し、Ca^<2+>の動態をモニターする系を構築することを目的としている。 1.Arabidopsis thalianaへのyc遺伝子導入 昨年度は、アクチン遺伝子のひとつであるact1遺伝子のプロモーターの下流にyc3遺伝子を繋いだベクターを構築し、花粉、花柱、胚珠でycを強く発現する形質転換体を得た。今年度、この植物体を用いてin vitro或いはsemi-in vivoの系で、花粉管のCa^<2+>の変動をリアルタイムでモニターした結果、花粉管伸長時には、7〜15秒の周期でCa^<2+>の変動が観察された。一方、in vivoで花粉を乳頭細胞に付着させた場合には、これよりも短い周期でCa^<2+>の変動が起きた。 さらに、SLG遺伝子プロモーターとyc遺伝子からなるベクターを構築して形質転換体を作出した結果、乳頭細胞でycを発現する植物体を得ることが出来た。 2.Brasica rapaへのyc遺伝子導入 Arabidopsis thalianaで発現を確認した遺伝子(act1-yc遺伝子とSLG-yc遺伝子)をBrasica rapaに導入し、それぞれ3個体、20個体の形質転換体を得た。yc発現花粉を用いて和合・不和合受粉時の花粉内Ca^<2+>の変動を調べたところ、和合受粉時にのみCa^<2+>の周期的な変動が見られた。
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