植物の自他認識反応のひとつである自家不和合性は、受粉時に、雌蕊側因子と花粉側因子との認識反応により、自己花粉との受精が抑制される現象である。本研究では、アブラナ科植物の受粉時における乳頭細胞と花粉でのCa^<2+>の動態を明らかにするために、Ca^<2+>センサータンパク質であるyellow cameleon (yc)遺伝子を導入した形質転換体を作製し、Ca^<2+>の動態をモニターする系を構築することを目的とした。 一番目に、形質転換が容易なアブラナ科植物の一種Arabidopsis thalianaへのyc遺伝子導入を行った。まず、生殖器官で強く発現する遺伝子のひとつであるact1遺伝子のプロモーターの下流にyc3遺伝子を繋いだベクターを構築し、花粉でyellow cameleonを強く発現する形質転換体を得た。次に、乳頭細胞でyellow cameleonを強く発現させるために、SLG遺伝子プロモーターとyc遺伝子からなるベクターを構築して形質転換体を作出した。これらの植物体を用いて、マイクロマニピュレーターによりin vivoで花粉を乳頭細胞に付着させた後の、花粉と乳頭細胞のCa^<2+>の変動をリアルタイムでモニターする系を構築することができた。その結果、花粉の吸水、花粉管の発芽時の乳頭細胞と花粉管でのCa^<2+>の動態をモニターすることができた。 二番目に、Brasica rapaへのyc3遺伝子の導入を行った。Arabidopsis thalianaで発現を確認した遺伝子(act1-yc遺伝子とSLG-yc遺伝子)を導入し、それぞれ3個体、20個体の形質転換体を得た。yc発現花粉を用いて和合・不和合受粉時の花粉内Ca^<2+>の変動を調べたところ、和合受粉時にのみCa^<2+>の周期的な変動が見られた。
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