研究概要 |
1.前年度に作成した緑藻Chlamydomonas reinhardtii光化学系IIの酸化還元反応を行うY_Dチロシン残基をフェニルアラニンに置換した変異体を用い、前年度に作製した高感度ジョリオ型酸素電極により、酸素発生反応S状態遷移過程を調べた。その結果、変異体では暗所でのS_2状態からS_1状態への減衰過程に速い減衰成分が存在せず、この過程は還元型Y_Dチロシンの酸化のみが関与していることが明確に示された。しかし、大部分を占める遅いS状態の減衰(S_3状態からS_2状態、S_2状態からS_1状態への減衰)は変異体、野生株間の差は見られず、この過程にはY_Dチロシン残基は関与していないことがわかった。 2.クラミドモナスの閃光酸素発生パターンは生株、変異体とも長期にわたり暗状態においた場合も、変化が見られなかった。この結果は野生株、変異体とも暗所でのS_1状態からS_0状態への還元が起こらないことを強く示唆しており、暗所でS_1状態が安定に存在するのは酸化型Y_Dによるものではなくなんらかの熱力学的な理由によるものであることを示していた。また、長期暗処理中の酸素発生活性の減少は野生株、変異体間での差はなくY_Dは少なくとも暗状態におけるMnクラスターの安定化には寄与していないと考えられた。事実、ヒスチジンタグをつけたY_D欠失変異体より、高い酸素発生活性をもつ光化学系IIコア標品を精製することが出来た。 3.Y_D欠失変異体より調製した高い酸素発生活性をもつ光化学系IIコア標品は、Y_Dの酸化が起こらないため、光化学系IIの研究において、さまざまな物理測定においてY_D酸化の妨害を考えることなく解析可能な格好の材料であると考えられる。この材料を用い、FTIR, ESR測定を行った。
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