出生直後の雌マウスがエストロゲンの曝露を受けると、卵巣除去後も膣上皮の角質化が持続し、やがて癌化する。また、雄では精子数が減少する。ホルモン標的器官の発生過程でのエストロゲン曝露は、細胞に不可逆的異常を引き起こす事から、いわゆる内分泌撹乱物質の影響として一番問題となる点である。このモデルを用いてエストロゲンと同時にビタミンA (VA)を投与すると、エストロゲン作用が抑えられることが本研究代表者により明らかにされている。そこで本研究では、VAによるエストロゲン作用の阻害機構を明らかにするため、膣上皮と精巣上体および輸精管のエストロゲン受容体の変動を調べた。その結果、VAはall or none的にエストロゲンの細胞に対する作用を阻止していることが判明した。VAによるエストロゲン作用の阻止が、エストロゲンが受容体に結合したあとの転写の開始、さらには次々に起こる転写のカスケードのどの部分で行われるのかを調べるため、エストロゲンの膣上皮に対する作用の実質的刺激物質である角質化細胞成長因子を投与する実験を行ったところ、その作用もまたVAにより阻止されることが判明した。さらに内分泌攪乱物質とされるビスフェノールAの幼若マウスに対する投与が、エストロゲンと同様に、動物が成体になった時点で精子の減少という景響をもたらし、また、その影響もVAにより阻止されることが判明した。この精子数の減少は精巣における精子産生能の低下ではなく、むしろ精巣上体と輸精管におけるエストロゲン受容体発現の異常により、間接的に産生が阻害されていることを明らかにした。これらの成果を基に現在行っている実験から、幼若期のエストロゲンあるいはエストロゲン様物質の毒性作用は、直接作用ではなくVA代謝系を攪乱することにより起こるのであるとの成績を得た。
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