研究概要 |
単細胞緑藻Botryococcus brauniiは、細胞乾燥重量の30〜60%もの多量の炭化水素を生成・分泌する。炭化水素生成過程の細胞微細構造の解析と平行して生化学的な解析を進める目的で、B.brauniiでは通常細胞質分裂直後に起こる炭化水素生成を、間期の細胞に誘導する系を確立した。間期の細胞外に蓄積した炭化水素を流動パラフィンにトラップさせて除去しても、顕著な炭化水素生成を誘導できなかった。間期の細胞を細胞壁分解酵素で適度なスフェロプラストにした場合、処理前に比べて約3倍量の炭化水素生成を誘導できた。更に、スフェロプラストの炭化水素生成量は分解酵素の除去後に時間と共に増加し、5時間後に最大量(12倍)になり、その後減少することが判った。炭化水素生成を最大限誘導したスフェロプラストの微細構造を電子顕微鏡で解析した。その結果、スフェロプラストの周囲に多量の炭化水素が蓄積していることを確認した。更に、ゴルジ体とトランス-ゴルジ-ネットワーク(TGN)は、通常の細胞周期で炭化水素を活発に生成するセプタム形成直後のゴルジ体やTGNに形態的に類似し、これらのオルガネラが炭化水素生成に関与することが強く示唆された。ゴルジ体・TGNを中心とした小胞輸送に関与するCOP被覆小胞のB.brauniiのβ-COP相同遺伝子をクローニングし(3,313塩基配列)、β-COPに対するポリクローナル抗体を作製して、免疫電子顕微鏡法でB.brauniiにおけるβ-COPの局在を明らかにした。確立した炭化水素誘導系を利用し、B.brauniiの炭化水素前駆体である脂肪酸伸張酵素に対する抗体を用いたウエスタンブロッティングでは、約54kDaのタンパク質を検出した。スフェロプラスト作製のために、B.brauniiの細胞壁構成物質組成と単糖組成を解析した結果、本藻特有のものであることも明らかにできた。
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