研究概要 |
本研究は,ヒトヨタケ交配型遺伝子の下流で働き,有性生殖初期過程を制御する遺伝子ネットワーク・分子機構を明らかにすることを目的とした。これまでの実験結果に基づき,「交配前の一核菌糸ではHMG転写因子であるPcc1により有性生殖が抑制されている。和合性の交配によりA遺伝子の2つの産物HD1とHD2の間でヘテロダイマーが形成されると,このダイマーはclp1のプロモーター領域に結合し転写を活性化する。生成されたClp1はその下流で働くPcc1と結合する。この結合によってPcc1による抑制が解除され,有性生殖が開始する。」という仮説を提唱している。この仮説を検証しさらに本菌の有性生殖初期過程を解明すべく実験を行い,以下の結果を得た。 1.昨年度までのyeast two-hybrid assayにより,Clp1タンパク質がPcc1タンパク質と相互作用することによりこの抑制を解除していることを示唆する結果を得ている。今年度は,Clp1のC末端側がPcc1のN末端側に存在するHMGドメインを含む領域に結合することを示した。今後,この結果に基づいて免疫共沈降実験を計画し,Clp1とPcc1がヒトヨタケの細胞内で実際に相互作用していることを検証する予定である。 2.pcc1の下流で働く遺伝子を同定するために,pcc1が突然変異したため交配することなくA遺伝子支配下の発生経路が活性化されている株(5337#4)とその親株(#5337)との間でサブトラクション実験を行い,5337#4で特異的に発現するmRNAのcDNAが濃縮されたcDNAライブラリーを作成することができた。今後,このライブラリーを用いて5337#4株で特異的に発現する遺伝子を検索し,pcc1の標的遺伝子を同定する実験を行う予定である。
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