研究概要 |
本研究では,担子菌ヒトヨタケの有性生殖初期過程の分子機構を解明することを目的として実験を行い,以下の結果を得た。 1.野外で新たに採集した一つの子実体からF_1一核菌糸株を得,それらを互いに交配した結果,これまで確認されていなかったcommon-Aヘテロカリオンの明確な表現型を観察することができた。遺伝分析の結果,この表現型は,交配型遺伝子以外の核因子によりもたらされていることが明らかとなった。 2.交配型遺伝子B支配下の過程である,二核化のための核移動にかかわるnum1 (nuclear mi-gration1)遺伝子の構造を確定した。 3.Num1をbaitとしたyeast two-hybrid systemによりcDNAライブラリーを検索し,Num1と相互作用している可能性のあるタンパク質をコードするnip1(num1-interacting protein1)遺伝子をクローニングした。 4.交配型遺伝子A支配下の発生経路に必須のclp1遺伝子の転写調節には,転写開始点から155〜146塩基上流の10塩基(5'-GATGCAAACA-3')がかかわっていることが明らかとなった。今後,この配列にA遺伝子産物のヘテロダイマーが結合するかどうかをgel-shift assay等により検証する予定である。 5.交配型遺伝子A支配下の発生経路にかかわる2つのタンパク質,Clp1とPcc1が相互作用しているかどうかについて,yeast two-hybrid assayにより調査した。その結果,この2つのタンパク質は少なくとも酵母内では相互作用しており,Clp1のC末端側領域と,Pcc1のHMGドメインを含むN末端側領域とが相互作用にかかわっていることが示された。 6.変異によりA経路が恒常的に活性化されているpcc1-4突然変異株(5337#4)とその親一核菌糸株(5337)との間でサブトラクション実験を行い,5337#4で特異的に発現する可能性のある遺伝子からのcDNAを64クローン得ることができた。今後,各クローンについて5337#4株と5337株での発現量の差をノーザン分析により確認した後,遺伝子ノックアウト実験など詳細な解析を行う予定である。
|