新生ラット脳内のエストロゲン受容体の一過性出現の解析

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13640667
• 研究機関: 横浜市立大学
• 研究代表者: 林 しん治 横浜市立大学, 総合理学研究科, 教授 (20076996)
• 研究分担者: 高山 光男 横浜市立大学, 総合理学研究科, 助教授 (10328635)
• キーワード: エストロゲン受容体 / 一過性出現 / 顔面神経核 / 後耳介筋 / 大脳皮質視覚野 / 新生仔 / 運動ニューロン / カルレチニン

研究概要

エストロゲンが脳の分化に関与していることは知られている。エストロゲンの作用は転写調節因子であるエストロゲン受容体(ER)を介しているものと考えられている。また、脳内に発現したERはその場所で長期間にわたって観察されることが知られていた。ところが、林らは、大脳皮質聴覚野と顔面神経核内側亜核とに、α型ERが一過性に発現する事実を見いだした。このERは、大脳皮質においては出生後5日令頃に出現するが、顔面神経核ではすでに胎仔期から検出される。いずれの領域においても、ERシグナルは約10日令で消失を始め、,生後2週令では殆ど検出されない。顔面神経核についてはER含有細胞がコリンアセチルトランスフェラーゼと共存することから、コリン作動性の運動ニューロンであることを確認した。また、これらのニューロンの出現を日令を追って計測したところ、ER含有ニューロンは非含有ニューロンに比べて小型であった。この観察は、未熟な運動ニューロンのみにERシグナルが検出されることを示唆していた。この領域の運動ニューロンは後部耳介筋に投射することから、標的組織に投射をしていない未熟なニューロンにのみERが発現するという仮説を立てた。一方、大脳皮質聴覚野のER含有細胞は、グリア細胞のマーカーであるGFAPとは共存しないこと、第5層に局在する錐体細胞であること、細胞内カルシウム代謝に関与するタンパクであるカルレチニンとの高率の共存が見られたことから、同様にニューロンであると想定したが、この領域の錐体ニューロンが投射している領域に蛍光物質などの逆行性標識物質を与えても細胞体に取り込まれることが証明されなかった。これらのことから、大脳皮質に一過性に発現するER含有ニューロンの生理学的な意味は現時点では不明である。

研究成果

• [文献書誌] Orikasa C, Kondo Y, Hayashi S, McEwen BS, Sakuma Y: "Sexually dimorphic expression of estrogen receptor beta in the anteroventral periventricular nucleus of the rat preoptic area : Implication in luteinizing hormone surge"Proc Soc Nat Acad Sd, USA. 99(5). 3306-3311 (2002)
• [文献書誌] Adams MM, Fink SE, Shah PA, Janssen WGM, Hayashi S, Milner TA, McEwen BS, Morrison JH: "Estrogen and aging impact the sunceilular distribution of estrogen receptor-alpha in the hippocampus of female rats"J Neurosci. (2002)
• [文献書誌] Ikeda Y, Nagai A, Ikeda M, Hayashi S: "Increased expression of Mullerian-inhibiting substance correlates with inhibition of follicle growth in the developing ovary of rats treated with E2 benzoate"Endocrinology. 143. 304-312 (2002)
• [文献書誌] Ikeda Y, Nagai A, Ikeda M, Hayashi S: "Neonatal estrogen exposure inhibits steroidogenesis in the developing rat ovary"Develop. Dynamics. 221. 443-453 (2001)
• [文献書誌] Hayashi S, Hayashi H, Ueda H, Papadopoulos GC: "Analysis of Transient Expression of Estrogen Receptor Alpha in Newborn Rat Primary Auditory Cortex"Horm.Behav. 40. 191-195 (2001)
• [文献書誌] Kataoka Y, Iijima N, Yano T, Kakihara K, Hayashi S, Hinuma S, Honjo H, Haynshi S, Tanaka M, Ibata Y.: "Gonadal regulation of PrRP mRNA expression in the nucleus tractus solitarius and ventral and lateral reticular nuclei of the rat"Mol. Brain Res. 87. 42-47 (2001)
• [文献書誌] Handa R, Hayashi S, Terasawa E, Kawata M: "Neuroplasticity, Development and Steroid Hormone Action"CRC Press, Boca Raton, USA. 423 (2001)