われわれは、新生仔ラットの顔面神経核および天脳皮質聴覚野にα型エストロゲン受容体(ER)が一過性に出現する現象を発見したが、この現象の持つ生物学的な意味付けについては殆ど解析が進んでいない。今回われわれは、胎生16日令から生後11日令の顔面神経核についてアポトーシスの出現をTUNEL法によって検索したが、陽性シグナルは殆ど検出できなかった。したがって、ERが一過性に出現するニューロンは早期に死滅する細胞ではないことが示唆された。ERニューロンの発生日令を検討する目的で、BrdU投与を行ったところ、妊娠11および12日令についてのみERとBrdUのシグナルの共存が見られた。したがって顔面神経核の運動ニューロンはおおよそ11-12日令に分裂・発生し、これらの内のいくつかにERが発現するものと考えられた。ER陽性ニューロンは生後14日令以降に殆ど検出されないことから、未熟な運動ニューロンにのみERが発現し、これらの運動ニューロンが成熟するとERが消滅するというわれわれの仮説が支持された。一方、大脳皮質聴覚野に見られるER陽性ニューロンと各種の神経ペプチドとの共存を検索したが、NPY、galanin、substance P、CCK8、VIPについてはERとの共存が見られなかった。これらのペプチドの多くはERが検出される第V層に線維の走行が見られたことから、間接的な影響がある可能性は否定できない。海馬におけるERの一過性出現が報告されているが、われわれの観察では十分な証拠は得られなかった。一方、電子顕微鏡観察により、海馬錐体ニューロンの細胞質内にもER陽性シグナルが検出されることから、細胞核外でのERを経由したエストロゲンの作用の可能性もある。
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