副腎皮質は、球状層、束状層、網状層と呼ばれる三層から構築される組織である。各層は異なる作用を持つステロイドホルモンを産生する。皮質全体として細胞の増殖、除去が定常的に行われる組織であるが、これまで幹細胞の同定はなされていない。近年、我々は球状層(zG)と束状層(zF)の間に、未分化でかつ増殖性を有する細胞からなる細胞層を見い出した。そしてこの細胞層は、多能性の幹細胞を含み、それが分化・増殖してzGとzFRの細胞が生じるとの仮説を提唱した。本研究は、この仮説を証明するため、副腎皮質から得られた単一クローンからなる未分化細胞集団を用い、この細胞から分化した副腎皮質細胞が生じるか否かを示すことを目的とした。 本研究では、まず、温度感受性SV40T抗原を発現するトランスジェニックマウス副腎から副腎皮質の性質を持つ細胞株の樹立を進めた。このマウスは、正常に発生し、その副腎は未分化細胞層(zU)を含めて、形態的機能的に正常なマウスとの違いは認められない。このことから、組織の細胞は、正常な発生・分化の途上にあると考えられた。T抗原の許容温度(33℃)で樹立した細胞株について、副腎皮質の細胞層マーカーの発現を検出したところ、大部分がzF細胞様の性質を保持していた。一部の株は、皮質の全細胞に存在するマーカーを発現するが、層特異的マーカーを発現しないことから、zU細胞と同様な性質を保持していることが判明した。併せて異なる形質の細胞株が得られたことから、細胞株の性質は、組織から取り出した時点の分化形質を反映していることが期待された。zU細胞株の性質を詳細に解析した結果、T抗原の非許容温度(39℃)でdibutyryl cAMPの存在下で培養することにより、zFマーカー遺伝子の発現が誘導されることが判明した。このzU株はラミニンやコラーゲンIVを主成分とするMATRIGELの存在下では、33℃でもzFマーカー遺伝子を発現し、dibutyryl cAMPの添加あるいは39℃へのシフトによりその発現が顕著に増加した。これらの変化は不可逆的であることから分化と考えられる。以上の結果から、zU様の細胞株は少なくともzF細胞に分化しうることが明らかになった。このzU細胞を個体へ移植し(移植による拒絶反応の無いscidマウスの腎臓皮膜下など)、副腎皮質三層細胞への分化を試みたが今のところ成功していない。現在、zU細胞株のzG細胞への分化の可能性を追求すると共に、細胞移植条件をさらに検討中である。
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