副腎皮質は、球状層、束状層、網状層と呼ばれる三層から構築される組織である。各層は異なる作用を持つステロイドホルモンを産生する。皮質全体として細胞の増殖、除去が定常的に行われる組織であるが、これまで幹細胞の同定はなされていない。近年、我々は球状層(zG)と束状層(zF)の間に、未分化でかつ増殖性を有する細胞からなる細胞層(zU)を見出した。そしてこの細胞層は多能性の幹細胞を含み、それが分化・増殖してzGとzFRの細胞を生じるとの仮説を提唱した。本研究は、この仮説を証明するため、副腎皮質から得られた単一クローンからなる未分化細胞集団を用い、この細胞から分化した副腎皮質細胞が生じるか否かを示すことを目的とした。 13年度は温度感受性SV40T抗原を発現するトランスジェニックマウス副腎から樹立した細胞株のうち、zU細胞と同様な性質を保持している上述の細胞株の性質を詳細に検討した。その結果、この未分化な細胞株に特異的に発現する新規分泌蛋白質を同定した。この蛋白質はN端から分泌シグナル、EGF様配列、プロカテプシンB様配列で構成され、間質性尿細管腎炎の抗原として同定されたウサギTIN-agと高い相同性がある。TIN-agは、細胞外マトリックス蛋白質として腎臓の尿細管の形成に重要であることから、本蛋白質も副腎皮質の形成に関与することが予測された。このzU細胞を移植に伴う拒絶反応のないscidマウスの腎臓被膜下に移植し副腎皮質の形成を試みたが成功には至っていない。14年度は新規分泌蛋白質の副腎内での役割を検討した。本蛋白質の発現ベクターをY-細胞株に導入するとY-1に存在するzFの機能マーカーであるP45011βの発現を抑制することが判明した。本蛋白質はadrenocortical zonation factor-1(AZ-1)と命名された。マウス副腎におけるAZ-1はzGおよびzUで生合成されるのに対し、転写産物である蛋白質は副腎皮質の全層、とくに血管構築に沿って認められたことから生合成と局在の部位が異なることも判明した。このzU細胞株はラミニンやコラーゲンIVを主成分とするMATRIGELの存在下ではT抗原の許容温度である33度でも分化し、zFマーカー遺伝子を発現した。AZ-1の細胞外マトリックス成分としての作用は副腎皮質三層の形成と維持に重要であると考えられる。現在、このzU細胞の個体へ移植を引続き試みるとともに、zU細胞株のzG細胞への分化を検討中である。
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