研究概要 |
本研究は、細胞壁形成におけるβ-1,6-グルカンの挙動を、S.pombeから調製して得た高分岐β-1,6-グルカンの抗体を用いて、蛍光顕微鏡および免疫電子顕微鏡学的に解析し、他の細胞壁グルカンの挙動と合わせて比較検討して以下の結果を得た。 1)隔壁形成過程におけるβ-1,6-グルカンの動態解析:高分岐β-1,6-グルカンは、隔壁形成が細胞の短径の約2/3まで形成した後から、陥入した細胞膜に沿うように出現することが判明した。この結果は、βおよびα-1,3-グルカンが陥入開始直後から認められた結果とは一致せず、局在位置もそれぞれ異なっていた。この事実から、隔壁形成時における各グルカンの合成は時空間的な制御を受ける事が理解された。 2)細胞壁再生過程におけるグルカンの動態解析:細胞壁の再生において、βおよびα-1,3-グルカンは、グルカンネットワーク形成の開始と共にその新生部位に認められ、β-1,6-グルカンはグルカンネットワークが細胞の半分以上を覆った段階に出現し、その標識は直鎖型より分岐型の方が多かった。1)2)から細胞壁の形成過程において、他の成分より遅れて出現するβ-1,6-グルカンは、グルカンネットワークの主成分であるβ-1,3-グルカンとは異なる機能を有することを示唆された。またβ-1,6-グルカンは、細胞壁では主に側鎖が付加された分岐型として存在すると考えられる。 3)細胞壁再生過程におけるグルカンの微細構造の解析:細胞壁再生3時間目の細胞を免疫電子顕微鏡法により解析した結果、β-1,3-グルカンとα-1,3-グルカンは、再生の初期段階にみられる細胞膜直上の電子密度が高い部位、基本繊維、微細繊維、リボン状の繊維構造、"canal"の外側の電子密度の高い部位に存在した。一方、高分岐β-1,6-グルカンは、再生の初期段階にみられる細胞膜直上の電子密度の高い部位には認められず、微細繊維やリボン状の繊維構造とそれらが分岐した部位に認められた。しかし、"canal"にはいずれのグルカンも認められなかった。以上の解析により、3種のグルカンは、よじれ合いながら三次元的に構築されることが推察された。 4)隔壁形成過程におけるα-1,3-グルカン合成酵素の動態解析:α-1,3-グルカン合成酵素Mok1pは隔壁形成の開始直後から陥入する細胞膜に局在し、細胞分裂が完了するまで存在する事が判明した。また、mokl変異株では、一次隔壁ではなく二次隔壁の構造に異常が生じることが明確になった。これにより、α-1,3-グルカンは隔壁形成の開始から出現するにもかかわらず、一次隔壁を先導するβ-1,3-グルカンとは異なり、二次隔壁形成に関係すると推察される。
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