研究概要 |
昨年度に引き続き,脊椎動物の嗅覚における匂いによる抑制性応答がどのようなメカニズムで起こるのかを明らかにする目的で,パッチクランプ法やEOG法を用い,単離したイモリ嗅細胞から匂い刺激に対する電気的応答を記録して解析し,以下の結果を得た。 1.IBMX投与によって引き起こされた電流は匂い物質の投与によって抑制されることは昨年度に報告したが,この匂い物質による抑制が濃度依存的に生じることが明らかになった。このようにして得られた濃度-応答曲線はHillの式y=E_<max>[x^n/(x^n+IC_<50^n>)](E_<max>は最大抑制のパーセンテージ,IC_<50>は50%の抑制を引き起こす濃度,nはHill係数),にフィットし,Hill係数はおよそ1.6mMであった。 2.同一の細胞で抑制性応答および興奮性応答のプロファイルを比較した。興奮性応答では,異なった分子構造を持つ匂い物質を投与すると,細胞によって顕著な匂い特異性が観察された。しかし抑制性応答では,興奮性応答のような匂い特異性はほとんど観察されなかった。 3 これまでの研究から,匂い物質は嗅細胞に興奮性応答を引き起こすと同時に,抑制性応答を生じさせることが明らかになった。それらの抑制の度合いはさまざまな匂い物質の組み合わせによって異なる。たとえばisoamyl acetateにanisoleを加えると,応答の大きさが75%減少するが,benzeneにanisoleを加えるとおよそ75%増加する。このような相互抑制が匂い識別に大きく貢献しているものと考えられる。さらに,心理物理学で古くから知られているマスキング効果は,嗅細胞のレベルで起こっている相互抑制に起因していると思われる。
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