単細胞生物は自己の生存に有利な場所を求める方向性のある運動をする。例えば、栄養のあるところに化学走性をしたり、最適な光環境に向かって走光性をする。このような方向性のある行動をするためには、刺激の方向が分かることと、決めた方向に正しく運動の方向を変えることが出来ることが必須である。本研究ではクラミドモナスの突然変異体の解析を通じて刺激に対する応答における鞭毛の運動の制御の仕組みを解明することを目的とする。 最近単離した走光生低下突然変異体lsp1の解析を進めた結果、鞭毛打の制御に関する新たな仕組みが明らかになった。lsp1は走光性を示すが、その程度は低く、しかも光の方向とその反対方向に泳ぐ細胞が混在していた。すなわち、走光性の正負を決定できないことが分かった。細胞膜を界面活性剤で取り除き、いろいろなカルシウムイオン濃度下でATPにより細胞を運動させたところ、2本の鞭毛が打つ強さの制御機構に異常があることが分かった。すなわち、野生株においては低カルシウムイオン濃度ではcis鞭毛(眼点に近い鞭毛)が強く打ち、高カルシウムイオン濃度ではtrans鞭毛(眼点から遠い鞭毛)が強く打つが、このような切り替え機構がlsp1では全く欠如していた。他種の走光性突然変異体ptx1とida1でも調べたところ、カルシウム濃度依存的なcis/transの鞭毛打強度調節機構がptx1でも失われていること、ida1では低下していることが分かった。そして、ptx1はlsp1と同様に正と負の走光性が決めることが出来ないこと、ida1は走光性の正負は決めることが出来るが走光性の程度が著しく低下していることが分かった。従って、カルシウム濃度依存的なcis/transの鞭毛打強度調節機構は、走光性に必要な方向転換を担うだけではなく、走光性の正と負の決定にも重要であることを示している。
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