研究概要 |
雄コオロギには、雌に求愛・交尾をする交尾期と雌を威嚇する交尾不応期(RS)からなる生殖サイクルがある。後者のうち、交尾の終了から精包の準備までを第1不応期(RS1)と呼び、精包の準備から求愛の開始までを第2不応期(RS2)と呼ぶ。RS1は通常数分であるが、変動が大きく、雌がいない場合や雄がストレスに曝されると、1時間以上に延長するが、RS2はつねに約1時間と一定である。先のわれわれの研究により、RS2を制御するタイマーは、最終腹部神経節(TAG)にあることが示唆されたので、本研究では、このタイマーのメカニズムを調べるためRS2の開始時に種々の薬物をコオロギの体内またはTAGに投与した。その結果、生体アミンである5-HT(セロトニン)とオクトパミンにはRS2の短縮効果があったが、もっとも顕著な効果(もとの38%まで)は、5-HTの前駆体である5-HTP(5ヒドロキシトリプタミン)にあった。また、その効果は、5-HTPを5-HTに変える酵素(AADC)の阻害剤により抑制されたため、5-HTPの短縮効果は、5-HTとなって現れるものと結論された。また、mRNAの阻害剤シクロヘキシミドの同時投与は、5-HTPによる短縮効果に影響を与えなかった。以上より、TAGにあるタイマーの時間刻みには、タンパク質の合成を介さず、5-HTに刺激されるセカンドメッセンジャーの関与が示唆された。これは、Ureshi, Dainobu and Sakai(J Comp Physiol 2002)の論文により報告した。また、TAGのタイマーニューロンにアプローチするため、生殖器運動ニューロンから細胞外記録をおこなったところ、時間依存性の活動を示すものを見い出された。これについては、Kumashiro, Tsuji and Sakai(J Exp Biol)の論文として投稿し、目下改訂中である。
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