研究概要 |
無脊椎動物の神経ペプチドの中には、互いに構造の類似した多種類のペプチド群として存在するものが数多く知られている。通常これらのペプチドは単一の前駆体タンパク質上に配列しており、一つの族(ファミリー)を形作っている。本研究の目的は、これらの多種同族体ペプチド族の個々のメンバーが機能的に多様化している可能性について検討し、その存在意義を探ることである。 我々がアメフラシから単離・同定した3つのペプチド族(AMRP, Enterin, NdWFamide)について検討し、以下の結果を得た。(1)これらの各ペプチドに対する抗体を用いた免疫組織化学的検索の結果、前部大動脈など多くの組織で免疫陽性細胞および繊維が観察され、多機能ペプチドであることが示唆された。(2)AMRPやEnterinは前部大動脈に対して弛緩活性を示すが、その効果を定量的に解析するため、予め10^<-7>MのNdWFamideで収縮を惹起した標本について調べた。その結果、弛緩活性はEnterinの10^<-7>M〜10^<-6>Mにおいて一部のメンバー間でわずかの差が見られたが、生物学的に意味のあるものかさらに検討が必要である。一方、AMRPについては各メンバーともNdWFamideによる収縮惹起標本に対して何ら作用を及ぼさなかった。また、AMRPは電気刺激による収縮を抑制するが、この効果について前駆体タンパク質上に存在する14種のAMRPメンバー間(10-6M)で比較したところ、有意な差は見られなかった。(3)多種同族体ペプチドの機能的多様化については、上記のような各メンバー間の活性比較の他に、不活性化と関連して分解酵素に対する感受性や生じた分解産物の活性の有無等の問題も関係すると思われる。心拍動増強作用のあるD-アミノ酸含有神経ペプチドであるNdWFamide(Asn-D-Trp-Phe-NH_2)の各組織膜標本による分解活性を検討した。分解活性を神経節、両性輸管、粗嚢、食道、心臓から調製した膜標本で比較したところ、神経節が最も高く、脱アミド化がその主反応であった。今後、神経組織膜標本による多種同族体ペプチドの分解活性と分解産物の活性の有無等について実験を行う予定である。
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