原生動物ブレファリスマ(Blepharisma japonicum)の光行動に関わるキノン光センサー複合体は、キノン色素類に属するブレファリスミンと200kDタンパク質が複合体を成した受容体であり、ロドプシンとは全く異なる新しいタイプの光センサーである。本研究の目的は、キノン光センサーを介した未知の光シグナル変換/伝達経路を解明することである。まず、ブレファリスミンと200kDタンパク質間で初期光シグナル変換が起きていることを確かめるために、ブレファリスミンと200kDタンパク質および他のタンパク質との相互作用を分光学的手法を用いて比較検討した。この結果、キノン色素は200kDタンパク質と結合した場合のみクエンチングを示した。この結果は、色素と他のタンパク質は非特異的結合をする傾向はあるが機能的複合体をなさないこと、およびブレファリスミン色素が吸収した光エネルギーが200kDタンパク質のコンフォメーション変化等に変換されることを示している。さらに、光シグナル伝達の最終段階では、ブレファリスミン分子近傍(オルガネラの膜間部)の光依存的プロトン濃度変化を解析・視覚化することによって、光受容オルガネラと細胞膜間のシグナル伝達がプロトンによって仲介されていることを示唆した(プロトン濃度上昇によって膜の脱分極が起きる)。このことを確かめるために、プロトノフォアを用いて細胞内プロトン濃度を変化させて光反応を解析した。この結果、光反応は細胞内プロトン濃度の影響を著しく受けることがわかった。この結果は、我々が提唱したプロトンシグナリング仮説を支持する有力な結果となった。200kDタンパク質の部分アミノ酸配列は決定できたが、再三のチャレンジにもかかわらずこの遺伝子をクローニングすることはできなかった。
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